内 容
希土類系列が関係する様々な領域で共通して見られる四組効果。本書はこの四組効果が生じるシステムを、微視的分光学と巨視的熱力学をつなぐ化学の根底原理と捉え、初めて体系的・定量的に記述。基礎事項も含めた丁寧な解説により、希土類を統一的に把握し、理解を一新する必読の書。
目 次
序 章 希土類元素、ランタニド、ランタノイドと周期表
0-1 希土類元素とランタニド
0-2 ランタニドとランタノイド
0-3 命名法よりも重要な電子配置[Xe](4f )q
0-4 渦巻き型周期表とランタニド
第Ⅰ部 希土類元素の量子化学
第1章 3価ランタニド・イオンの基底 LS 項と J レベル
1-1 閉殻および開殻の電子配置
1-2 全角運動量(L)と全スピン角運動量(Ŝ ):LS 項
1-3 (4f )2配置における LS 項の分類
1-4 L と Ŝ の合成とスピン・軌道相互作用
1-5 J レベルの例:(4f )2配置における LS 項の J レベル
1-6 Hund の規則と基底 LS 項、基底 J レベル
1-7 Landé の間隔則
1-8 3価ランタニド・イオンの基底 LS 項と基底 J レベル
第2章 開殻電子配置(nl )qを持つ原子・イオン系列のイオン化エネルギー
2-1 (nl )q →(nl )q-1 に対応するイオン化エネルギー
2-2 (2p)q と(3p)q 系列におけるイオン化エネルギー
2-3 (3d)q と(4f )q 系列におけるイオン化エネルギー
第3章 (np)q 電子配置における LS 多重項のエネルギー準位
3-1 (np)電子間の電子反発エネルギー
3-2 電子反発エネルギーの配置平均値
3-3 配置平均エネルギーと LS 項エネルギー準位
3-4 LS 多重項の構造:配置平均エネルギー基準の重要性
3-5 Dieke ダイアグラムの意味するもの
第4章 多重項理論と(nl )q 電子配置の原子・イオンのイオン化エネルギー
4-1 (np)q 配置におけるイオン化エネルギーの場合
4-2 (nd)q 配置におけるイオン化エネルギーの場合
4-3 (nf )q 配置におけるイオン化エネルギーの場合
4-4 J レベル分裂の効果と(4f )q 系列に対する Jørgensen の理論式
4-5 RSPET と Hund 則の量子力学的解釈
4-6 化合物や凝縮相における3価ランタニド・イオンの電子状態
4-7 ランタニド(Ⅲ)化合物・錯体の熱力学量への反映
4-8 (3d)q 系列化合物と(4f )q 系列化合物の類似性
4-9 (3d)q 系列化合物の配位子場理論と電荷移動型絶縁体化合物
第5章 イオン化エネルギーとランタニド・スペクトル
5-1 ランタニドの基底電子配置とイオン化エネルギー
5-2 Ln 金属の電子配置と Ln(Ⅲ)化合物の標準生成エンタルピー
5-3 Ln(Ⅲ)化合物・錯体間の反応のエンタルピー変化と電子配置
5-4 ランタニド・スペクトル:ΔE(4f → 5d )
5-5 補正した第3イオン化エネルギーと第4、第5イオン化エネルギー
5-6 ランタニドの異常酸化数と第3、第4イオン化エネルギー
第Ⅱ部 Jørgensen 理論の再検討
第6章 refined spin-pairing energy theory の問題点
6-1 Slater-Condon-Racah 理論のパラメーターと有効核電荷の関係
6-2 (4f → 4f )スペクトル・データから推定される遮蔽定数
6-3 X線スペクトルにおけるスピン2重線
6-4 X線スペクトル・スピン2重線から推定される遮蔽定数
6-5 イオン化の過程で変化する有効核電荷
第7章 ランタニド四組効果と Jørgensen の理論式
7-1 溶媒抽出系におけるランタニド四組効果
7-2 溶媒抽出系での Ln(Ⅲ) の反応と 4f 電子配置エネルギー変化
7-3 配位子交換反応と四組効果
7-4 四組効果をめぐる有効核電荷と Racah パラメーターの関係
7-5 Reppard らの四組効果と Nd 化合物での電子雲拡大系列
第8章 改良した refined spin-pairing energy theory とその応用
8-1 (4f )q+1 →(4f )q に補正した第3イオン化エネルギー
8-2 補正した第3イオン化エネルギーの解析
8-3 ランタニド金属の蒸発熱
8-4 イオン化エネルギーの和(ΣIi = I1 + I2 + I3 )
8-5 (4f )q →(4f )q-1 の第4イオン化エネルギーとその解析
第9章 Ln 金属のX線光電子スペクトルと逆光電子スペクトル
9-1 X線光電子スペクトルと逆光電子スペクトル
9-2 ランタニド金属の XPS・BIS スペクトルの解析
9-3 ランタニド金属 XPS・BIS の終状態
9-4 RSPET とランタニド金属の XPS・BIS をめぐる議論
9-5 ランタニド化合物の XPS・BIS と価数揺動
コラム RSPET とJ.A.Wil son の意見
第Ⅲ部 Ln2O3 と LnF3 の結晶に見る四組効果
第10章 ランタニド(Ⅲ)イオン半径の四組効果
10-1 cubic-Ln2O3 の格子定数と Ln(Ⅲ)のイオン半径
10-2 ランタニド収縮と四組効果
10-3 原子半径のランタニド収縮と四組効果との比較
10-4 Ln2O3 の格子エネルギーと Born-Haber サイクル
10-5 イオン性結晶の点電荷モデルと Ln2O3 の格子エネルギー
10-6 格子エネルギーの相対値と Ln2O3 における多形の問題
第11章 LnF3 系列の結晶構造と格子エネルギー
11-1 LnF3 系列での結晶構造変化
11-2 LnF3 系列における格子エネルギーと ΔH 0f(LnF3 )
11-3 LnO1.5 、LnF3 、Ln3+(g)の ΔH 0f と四組効果の相互関係
第12章 LnO1.5 と LnF3 の熱力学量が反映する電子雲拡大効果
12-1 LnF3 と LnO1.5 の ΔH 0f.298 の差による Racah パラメーターの相違
12-2 Nd(Ⅲ)化合物における Racah パラメーターの相違:電子雲拡大系列
12-3 LnO1.5 と LnF3 の格子エネルギーにおける四組効果の有無
12-4 化合物・錯体の構造と電子エネルギーの連関
12-5 4f 電子数と Ln-O 距離:どちらが本質的な説明変数か
12-6 非金属固体の電子論とイオン結晶モデル
12-7 f → f 遷移スペクトルの圧力誘起赤色変位と電子雲拡大効果
12-8 熱膨張による Racah パラメーターの増大:LnO1.5 系列の場合
コラム Goldschmidt と Born の確執:1929年と今日
第Ⅳ部 熱力学量が示す系列内構造変化と四組効果
第13章 Ln(Ⅲ)化合物・錯体系列の構造変化と四組効果(Ⅰ)
13-1 Ln(C2H5SO4)3・9H2O の溶解反応:ΔH 0s 、ΔS 0s 、 ΔG 0s
13-2 LnCl3・nH2O の溶解反応:ΔH 0s 、ΔS 0s 、 ΔG 0s
13-3 Ln3+(aq)系列での水和状態変化
13-4 Ln(Ⅲ)-(dipic)3 、 Ln(Ⅲ)-(diglyc)3 錯体の生成定数
13-5 ΔSr の四組効果と電子エントロピー
13-6 同じ極性を持つ ΔH と ΔS の四組効果と振電相互作用
13-7 相関する ΔH と ΔS の四組効果:Debye 特性温度の系列変化
13-8 定圧熱容量 CP でつながる ΔH と ΔS
13-9 Ln(Ⅲ)化合物の極低温 Cp 、磁気相転移、結晶場分裂準位
第14章 Ln(Ⅲ)化合物・錯体系列の構造変化と四組効果(Ⅱ)
14-1 LnCl3 系列における構造変化と LnCl3 の熱力学量
14-2 Ln(OH)3 系列に対する ΔH 0f 、ΔS 0298 のデータ
14-3 Ln-DTPA(aq)と Ln-EDTA(aq)の錯体生成反応
14-4 2種類の Ln(Ⅲ)溶存錯体の共存:Ln-EDTA(aq)と Ln3+(aq)の系列
14-5 Ln3+(aq)の標準部分モル・エントロピー
第15章 Ln3+ イオンの水和エンタルピーと水和エントロピー
15-1 水和エンタルピー
15-2 ΔHabs.hyd(H+)の値
15-3 水和エントロピーと Sackur-Tetrode 式
15-4 Ln3+ イオンの水和とその熱力学量
15-5 最小エネルギー配置の現実物質系と古典論的極限
第16章 熱力学量の四組効果から求めた電子雲拡大系列
16-1 エンタルピー四組効果の RSPET 解析
16-2 エントロピー四組効果の RSPET 解析
16-3 ΔGr の四組効果:ΔHr と ΔSr で相関する四組効果の問題
16-4 Ln(Ⅲ)金属の Racah パラメーター(Ⅰ):ΔH of の RSPET 解析
16-5 Ln(Ⅲ)金属の Racah パラメーター(Ⅱ):ΔS of の RSPET 解析
第17章 Ln(Ⅲ)化合物と Ln 金属の融解:その熱力学量の四組効果
17-1 Ln(Ⅲ)化合物・Ln 金属の融解の熱力学量
17-2 LnF3 と LnCl3 系列における融解の熱力学パラメーター
17-3 「下に凸な四組効果」を示す LnF3 とLnCl3 の融点の系列変化
17-4 Ln 金属系列の融解の熱力学量と四組効果
17-5 Ln2O3 系列の融解の熱力学量と四組効果
17-6 改良 RSPET 式と Ln(Ⅲ)化合物、Ln(Ⅲ)金属系列の融解の熱力学量
コラム Dirac と Heisenberg の講演会(1929)と長岡半太郎の檄
第Ⅴ部 地球化学における四組効果
第18章 海洋と海洋性堆積岩における希土類元素
18-1 海水の REE 存在度パターンが示す四組効果
18-2 深海マンガン団塊と石灰岩のREE 存在度パターン
18-3 海水における REE(Ⅲ)炭酸錯体
18-4 Ln(Ⅲ)炭酸錯体安定度定数の「Gdでの折れ曲がり」とその波紋
18-5 Fe 水酸化物共沈澱法による Ln(Ⅲ)炭酸錯体生成定数
18-6 Ln(OH)3・nH2O と個別炭酸錯体との分配反応:実験系と現実海水系との比較
第19章 火成作用における希土類元素と四組効果
19-1 火成岩マグマにおける希土類元素の分別と四組効果
19-2 四組効果を示す希土類元素鉱物の REE 存在度と RSPET 式
終 章 希土類元素の化学・地球化学の原理
終-1 RSPET の新展開と Moeller(1973)の総説
終-2 RSPET と希土類元素地球化学
受 賞
書 評
『日本地球化学会ニュース』(第230号、2017年、評者:鍵裕之氏)