内 容
大航海時代を拓いたスペインにおいて、非ヨーロッパ地域の「野蛮」な人々との関係をめぐり支配の正当性や征服戦争の是非などを問いかけ、新たな政治秩序を模索したサラマンカ学派。ラス・カサスにいたるその思想の展開を丹念に跡づけ、主権国家論に連なる近代の政治思想を見直す力作。
目 次
凡 例
序 章 「もう一つの国家論」の生成
インディアス問題の起源と終焉
サラマンカ学派第一世代とその周辺
先行研究の成果と課題
3つの争点
本書の構成
「インディアス」、「インディオ」、「近代」
第1章 近代政治秩序とインディアス問題
第1節 ヨーロッパ秩序の主体としての国家
キリスト教共同体における教権、帝権、王権
王権の自律と優位性の獲得
絶対王政と立憲思想の系譜
第2節 ヨーロッパ-非ヨーロッパ間関係の主体としての国家
中世ヨーロッパの世界像
大航海時代における
インディアス問題の生成
主要争点をめぐる三つの立場
インディアス問題と新しい世界秩序
第2章 理性と賢慮 —— インディオの本性
第1節 「野蛮人」インディオという言説
野蛮人概念の生成と展開
インディオの地位
イスラム教徒、ユダヤ教徒、スラヴ系諸民族との異同
第2節 目的論的階層秩序観と自然奴隷説
Servus —— 奴隷か農奴か
アリストテレス-トマス主義の継承 —— 先駆者メイジャー
自然奴隷説、スペインへ —— グレゴリオとメサ
支配と服従の法則 —— セプルベダ
自然奴隷の基準
第3節 教育の欠如と自然児説
初期の自然奴隷説批判 —— モンテシノス
ブルゴス会議での審議 —— パラシオス・ルビオスとパス
神の像としての人間 —— ビトリア
ビトリア思想の背景 —— インディアス文明、ルネサンス、カトリック改革
子ども、あるいは田舎の人間としてのインディオ
サラマンカ学派の形成 —— ソト、カノ、D・デ・コバルビアス、カランサ
ビトリア思想の継承
文明と野蛮の近代的二分法の生成
第4節 多様性の承認と理性的人間説
野蛮人の分類 —— ソリタ、ペニャ対アコスタ、ボテロ
「インディオの保護官」ラス・カサス
野蛮人概念の再定義
差異と優劣の分離
自然奴隷説に対する反駁
自然児説に対する反駁
第3章 政治権力の本質 —— インディアス支配の正当性
第1節 ビトリアによる伝統的諸権原の否定
権力の自然性
主権論に連なる論理との異同
所有権、使用権、用益権の区別
権力観に基づく伝統的諸権原批判
Ius をめぐる解釈 —— 客観的正義か主観的権利か
権力主体観に基づく伝統的諸権原批判
第2節 サラマンカ学派の諸権原
万民法上の権利
万民法上の義務
自然的劣等性
新たな諸権原をめぐる評価
第3節 ラス・カサスにみる正当性の否定
ラス・カサスとビトリア
伝統的諸権原に対する批判
サラマンカ学派の諸権原に対する批判
潜在的支配権
第4章 正戦の要件 —— インディアス征服戦争の是非
第1節 「
キリスト者による武力行使の是非
正戦論の起源と展開
正当戦争の要件 —— 正しい権威、原因、遂行法
正戦論に対する批判
第2節 戦争開始の正当性
君主の権威の有無 ——
正当原因の有無 —— インディオの「不正」をめぐって
4つの正当原因 —— セプルベダ
「異教」および「自然に反する罪」の否定 —— ビトリア
万民法に基づく七つの正当原因 —— サラマンカ学派
正当原因の否定 —— ラス・カサス
第3節 戦争遂行の正当性
「小さな悪」としての違法戦闘行為 —— セプルベダ
人道性をめぐる疑問 —— サラマンカ学派
損害賠償と原状回復の要求 —— ラス・カサス
終 章 「もう一つの国家論」の意義と課題
主権国家体制の確立と「もう一つの国家論」
インディアス問題以後と「もう一つの国家論」
あとがき
文献一覧
事項索引
人名索引
受 賞
書 評
『カトリック教育研究』(第28号、2011年、評者:平山篤子氏)
『社会思想史研究』(第34号、2010年、評者:崎山政毅氏)
『図書新聞』(2009年12月26日付、特集「2009年下半期 読書アンケート」、評者:崎山政毅氏)