内 容
従来の生態学が偏重しがちであった個体群ではなく、歴史性を担う種に注目し、遷移現象やすみ分けなど、樹木の種間関係を通じて森林群集を空間的・時間的に捉え直す。日本の多くの森林で優占種となっているブナ科を通して、系統分類学と生態学の統合を試みた、エコロジーの新地平。
目 次
はじめに
序 章 種の特性と群集
1 種の認識について
1-1 種についての認識の変遷
1-2 種の概念について
2 種の実在性について
2-1 種の実在性についての認識
2-2 三中による種の実在性の否認
2-3 認知能力の生得性と種の認識の問題
3 種分化と系統的放散
3-1 種分化と形態的多様性
3-2 種分化をとおしての系統的放散
4 種と群集
4-1 種と群集をつなぐ系統群
4-2 種と群集の特性
4-3 群集の複雑性と多様性
4-4 群集生態学
4-5 群集についての全体論と還元論
第Ⅰ部 植物の系統と分類
—— ブナ科の位置付け
Ⅰ-1 植物の系統と被子植物
1 植物の系統
1-1 ライニアとマツバラン
1-2 裸子植物
2 被子植物の多様性
2-1 被子植物の誕生
2-2 被子植物の多様性と系統
2-3 樹木と草本の分化
3 草本の特殊化の典型例 —— 塩生植物の生存戦略
3-1 ホソバノハマアカザの種子の二型性
3-2 2種類の種子の発芽特性の違い
3-3 ホソバノハマアカザとハママツナのすみ分け
3-4 二年生草本ハマサジの生存戦略
Ⅰ-2 ブナ科の系統と学名
1 ブナ科の系統
1-1 ブナ目
1-2 ナンキョクブナ科
1-3 世界のブナ科
1-4 日本のブナ科
2 ブナ科における系統と新しい分類体系
2-1 ブナ科の系統
2-2 ブナ科における亜科の区分について
2-3 コナラ属における新しい分類体系
3 果実と殻斗の進化
3-1 Forman によるカクミガシの発見
3-2 ブナ科における果実と殻斗の進化
3-3 ナンキョクブナ科における殻斗と果実
4 ブナ科と学名
4-1 学名について
4-2 学名と図鑑・植物誌
4-3 ツブラジイ、スダジイおよびオキナワジイの学名の変遷
4-4 ツブラジイとスダジイにおける種名の逆転
4-5 ミズナラの学名
エピソード1【学名の分類学の難しさ】
第Ⅱ部 樹木の生活史と生態
—— ブナ科に即して
Ⅱ-1 ブナ科の生活史
1 ブナ科の種子発芽
1-1 短期発芽と長期発芽
1-2 シラカシの種子発芽
1-3 クヌギの種子発芽
1-4 ブナの種子発芽
エピソード2【松原輝男さんとの出会い】
2 ブナ科の種子と果実
2-1 種子と果実の大きさが意味するもの
2-2 カバノキ科の種子との比較
2-3 ブナの結実周期
エピソード3【ブナの実拾って17年】
3 樹木の萌芽再生
3-1 萌芽再生の意義
3-2 根の貯蔵養分と萌芽再生
3-3 ブナ林構成種3種における萌芽特性の違い
Ⅱ-2 ブナ科における近縁種の分布、生態および雑種形成
1 アベマキとクヌギ
1-1 アベマキとクヌギの分布
1-2 アベマキとクヌギの形態の違い
1-3 アベマキとクヌギの種子発芽特性と星状毛の有無
1-4 アベマキとクヌギの雑種形成と交雑帯について
1-5 クヌギの植栽と帰化植物の可能性
1-6 山形県に分布するアベマキ
2 ツブラジイ、スダジイおよびオキナワジイ
2-1 スダジイとツブラジイの分布
2-2 スダジイとツブラジイの形態と生活史の違い
2-3 スダジイとツブラジイの生態的特性の違い
2-4 スダジイとツブラジイの雑種について
2-5 東三河における植栽起源のスダジイの分布拡大
2-6 葉の表皮組織が2層であることの意味
2-7 スダジイの起源と人間による伝搬説
2-8 氷期におけるスダジイの分断と日本産シイ類の系統について
エピソード4【シイの実拾って11年】
Ⅱ-3 フモトミズナラの分類学的位置付けと生態
1 フモトミズナラの分類学的位置付けをめぐって
2 フモトミズナラのカシワモドキ説
3 フモトミズナラの遺伝子解析の研究
4 フモトミズナラの雑種起源説
5 フモトミズナラの生態
エピソード5【フモトミズナラを見つづけて27年】
第Ⅲ部 森林のダイナミクス
—— 火山植生の遷移を中心に
Ⅲ-1 植生遷移研究の歴史的概観
1 植生遷移研究の始まりと古典的な論争の時期
2 遷移の古典理論の完成
3 クレメンツの遷移理論の構造とその問題点
4 遷移研究におけるその後の展開
5 遷移理論におけるパラダイム転換
6 火山植生遷移の研究史概略
Ⅲ-2 桜島における火山植生遷移
1 田川による火山植生遷移の研究
1-1 田川の研究の意義
1-2 桜島における溶岩上の初期遷移
2 田川の研究における問題点
2-1 遷移後期に優占する樹種の問題
2-2 森林伐採の影響
2-3 空間的な配置から時間軸を読み取る問題
2-4 極相に達するまでの時間
2-5 果たしてスダジイ林は極相と呼べるのか
Ⅲ-3 三宅島溶岩上における火山植生遷移
1 三宅島における噴火、火山噴出物、および植生の概況
1-1 噴火と火山噴出物
1-2 植生の概況
2 1962年溶岩上における植生遷移
2-1 1962年溶岩上における植生の概況
2-2 種の侵入パターン
2-3 3種における種子散布特性の違い
3 1874年溶岩上における植生の発達と遷移
4 発達したスダジイ林とタブノキ林
4-1 古い溶岩上のスダジイ林
4-2 大路池わきのタブノキ林
5 三宅島における遷移のパターン、メカニズム、モデル
5-1 植生遷移のパターン
5-2 遷移のメカニズム
5-3 ストレスと撹乱を組み込んだ森林動態のモデル
6 三宅島における植生遷移の特色
6-1 オオバヤシャブシとフランキアの共生
6-2 三宅島ではカシ類が欠如すること
6-3 三宅島で植生遷移の進行が速いと考えられる理由
6-4 局所的極相という概念
Ⅲ-4 磐梯山における火山植生遷移
1 磐梯山の噴火と植生遷移
1-1 磐梯山における遷移研究の意義
1-2 磐梯山の噴火史概略
2 植生パターンを成立させる要因
3 岩塊地における森林の成立と遷移
3-1 先駆種と後続種
3-2 胸高直径と樹齢
3-3 イタヤカエデとミズナラの侵入パターンの違い
3-4 アカマツの植栽と森林の遷移
4 泥土地帯における植生遷移
4-1 ススキ草原の遷移
4-2 湿性遷移
5 遷移の後期過程における問題
5-1 ブナの侵入が遅いのはなぜか
5-2 山腹岩塊上における混交林の問題
5-3 丸山ブナ林
Ⅲ-5 穂高岳右俣谷の渓谷林における森林のダイナミクス
1 穂高岳右俣谷の概況
2 右俣谷の渓谷林における樹種構成
3 サワグルミの結実周期と実生の消長
3-1 サワグルミの結実周期
3-2 サワグルミの実生の消長
4 サワグルミとトチノキの生存戦略の違い
5 雪崩崩落跡地における植生遷移
6 ヒロハカツラの生存戦略
エピソード6【右俣谷における雪崩との出会い】
Ⅲ-6 大根山湿地における植生遷移
1 大根山湿地の概況
2 大根山湿地の地形、水系および水位
3 大根山湿地における樹林の発達
4 森林伐採の時期と湿地の拡大
5 大根山湿地の誕生と衰退をめぐって
Ⅲ-7 遷移理論に関する諸問題
1 倉内の植生遷移に関する研究の検討
2 遷移における位相の問題
3 極相概念のゆらぎ
4 種の位置付けに関する問題
5 熱帯と温帯における遷移現象の違い
エピソード7【チャンスと出会い】
第Ⅳ部 すみ分けと種分化
Ⅳ-1 すみ分け論
1 渓流性昆虫におけるすみ分け
1-1 今西のすみ分け原理
1-2 谷田によるシマトビケラ幼虫の研究
2 すみ分け概念の拡張
2-1 ニッチ概念の概略
2-2 ニッチ概念の問題点
2-3 すみ分けとニッチ
2-4 種間関係と競争
2-5 ハッチンソンの洞察
2-6 すみ分け概念の拡張
2-7 すみ分けの英文表記について
Ⅳ-2 樹木におけるすみ分け
1 樹木におけるすみ分け現象の発見とその認識
1-1 針葉樹類におけるすみ分け現象の発見
1-2 北米ナラ類における種間関係の解釈をめぐって
1-3 スギ(裸子植物)とブナ(被子植物)におけるすみ分け
2 ブナ科の系統群におけるすみ分け
2-1 日本のブナ科の系統群におけるすみ分けのパターン
2-2 ブナとイヌブナのすみ分け
2-3 コナラ節におけるすみ分け
2-4 ブナとナラ類の関係
2-5 カシ類におけるすみ分け
3 ブナ科以外の系統におけるすみ分け
3-1 ヤナギ属の系統群における種のすみ分け
3-2 バラ科のサクラ類の系統群における種のすみ分け
3-3 ムクロジ科のカエデ属の系統群における種のすみ分け
3-4 カバノキ科の系統群における種のすみ分け
4 種のすみ分けと森林帯
4-1 モミとツガのすみ分け —— 太平洋側針広混交林
4-2 イスノキとイチイガシ —— 暖温帯林
5 すみ分けと生態的統合
Ⅳ-3 樹木における種分化
1 コナラ属における種の問題
2 ミズナラにおける種内文化
2-1 北海道北部海岸に分布するミズナラのエコタイプ
2-2 ミズナラから分化しつつあるミヤマナラ
3 モンゴリナラの系統と種分化
3-1 モンゴリナラとミズナラの分化
3-2 分類学的系統と遺伝子の系統
4 フモトミズナラの誕生と分布拡大
5 種分化と断続平衡論
5-1 オニグルミの起源について
5-2 断続平衡論からみた種分化
エピソード8【一般教育に携わって35年】
第Ⅴ部 森林群集論
Ⅴ-1 森林の成り立ちと構造特性
1 樹木と環境
1-1 森林を成り立たせる要因
1-2 複合要因としての風ストレス
1-3 植生と群系
2 森林と階層構造
3 細胞膜とのアナロジー
4 植生連続体説
5 連続体としての森林群集
Ⅴ-2 樹木社会学批判
1 森林を社会として捉えることの問題点
2 今西の種社会概念と種の認識
3 樹木の情報伝達機構について
4 種の共同と共存をめぐって
5 樹木の相互作用と社会性
Ⅴ-3 森林群集論
1 森林群集論の枠組み
2 歴史性
2-1 種分化
2-2 系統的放散
3 生態的統合
3-1 森林における生物間相互作用
3-2 森林群集における種間関係
4 系統と生態との関係 —— ブナ科とカエデ属を例に
終 章 系統生態学の展望
引用文献
あとがき
事項索引
和名索引