内 容
セルバンテスを擁する黄金世紀を中心に、今なお読者を挑発しつづけるスペイン文学の精華を、第一人者が過不足なく論じたリーダブルな文学史。征服記や神秘主義文学もカバーする他、比較史的観点をも取り込み、また三宗教が共存する特異な中世をもったスペイン社会からの史的把握を行う。
目 次
序 章 スペイン文学のイメージ形成にむけて
1 スペイン中世の特異性
2 イスラム・スペインの文化的優越
3 スペイン・ルネサンスの諸相
4 スペイン文学の基本的特徴
5 スペイン文学の定義
第1章 『わがシッドの歌』もしくはスペイン的個性
1 作者と制作年代
2 『わがシッドの歌』の史実と虚構
3 『わがシッドの歌』の構成と技法
4 『わがシッドの歌』の特徴 ——『ロランの歌』『ニーベルンゲンの歌』との
比較において
第2章 『よき愛の書』もしくはユーモアの発生
1 作者について
2 写本について
3 『よき愛の書』の構造
4 重層性-異端性
5 開かれたテクスト
第3章 『ルカノール伯爵』もしくは物語の普遍性
1 ドン・フアン・マヌエルの生涯
2 『ルカノール伯爵』の構造
3 作者としての自意識
4 ドン・フアン・マヌエルにおける聖と俗
5 物語の古さと新しさ
第4章 ロマンセ、もしくは断章のポエジー
1 ロマンセの成立 —— 叙事詩の断片化
2 ロマンセの展開と分類
3 ロマンセの特徴 ——「アルナルドス伯爵」によって
4 ロマンセの継承性とその影響
第5章 『ラ・セレスティーナ』もしくは出口なきニヒリズム
1 発展的成立過程について
2 ローハス=コンベルソの問題
3 いかなるリアリズムか
4 悪徳の天使セレスティーナ
5 悲・喜劇の意味
6 パロディとしての愛
7 出口なきニヒリズム
第6章 騎士道物語、もしくは空想のリアリティー
1 〈遅れた結実〉としてのスペインの騎士道物語
2 『アマディス・デ・ガウラ』について
3 騎士道物語と読者
4 熱狂と反発
5 時代の熱狂が生んだ空想のリアリティー
第7章 『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』もしくはピカレスク小説の誕生
1 テキストと検閲
2 ピカレスク小説、何故スペインか
3 手紙から自伝へ
4 いかなるリアリズムか
5 時間の経過と記述量の問題
6 神聖帝国神話の解体
7 非人間化(=敗北)の文学的勝利
第8章 クロニカ、もしくは〈他者〉との葛藤
1 報告書としてのクロニカ
2 クロニカを文学として読むことの意味
3 〈他者〉との出会い
4 ラス・カサス対セプルベダ —— バリャドリード論争
5 ラス・カサスの真実
第9章 神秘主義文学、もしくは瞑想と実践の融合
1 〈遅れた結実〉としての神秘主義文学
2 四大神秘主義作家
3 神との結婚に向かう道程としての〈暗夜〉
4 サンタ・テレサ・デ・ヘスス『自叙伝』について
5 スペイン神秘主義の特異性
第10章 『グスマン・デ・アルファラーチェ』もしくは反宗教改革の文学的実践
1 メルクマールとしての『グスマン・デ・アルファラーチェ』
2 孤独な放浪者、または饒舌の孤独
3 原罪によって方向づけられた小説空間
4 ピカレスク小説の効用
5 敬虔なるピカロ
第11章 『ドン・キホーテ』もしくは近代小説の祖
1 牢獄で鍛えた意識の仮面
2 不可能なあらすじの試み
3 自作自演の役者、ドン・キホーテ
4 一人ではいられないドン・キホーテ
5 ドン・キホーテとサンチョ・パンサの相互影響
第12章 ロペ・デ・ベーガ、もしくは《コメディア》の完成
1 〈自然の怪物〉
2 《コメディア》の成立
3 ロペ・デ・ベーガの演劇論
4 『オルメードの騎士』の技巧
5 最良のテーマとしての名誉
6 生粋主義の表現者としてのロペ・デ・ベーガ
第13章 ゴンゴラ、もしくは近代詩の創始
1 ゴンゴラに至るスペイン詩の流れ
2 『孤愁』をめぐる論争
3 二人のゴンゴラ
4 『孤愁』について
5 〈誇飾主義〉の内実
6 近代読者を求める詩
7 ゴンゴラ的〈異化〉について
第14章 ケベード、もしくは文体の勝利
1 時代錯誤の憂国の士
2 ケベード文学の定数
3 ピカレスク小説としての『ぺてん師ドン・パブロスの生涯』
4 『ぺてん師ドン・パブロスの生涯』の反伝記性
5 時代に逆行する小説
6 機知の誇示としての小説
第15章 『セビーリャの色事師』もしくはドン・フアンの誕生
1 なんと気長な執行猶予!
2 ドン・フアンの人となり
3 17世紀のスペインとドン・フアン
4 時間の内と外のドン・フアン
第16章 カルデロン、もしくは世界大劇場
1 聖体神秘劇について
2 人命よりも重い名誉
3 驚異としての『人生は夢』
4 驚異の夢と夢の驚異
5 自由意志の勝利としての『人生は夢』
6 スペイン・バロックの典型としてのカルデロン
第17章 グラシアン、もしくはスペイン的機知
1 人生のアレゴリーとしての『クリティコン』
2 〈奇想〉の集積としての『クリティコン』
3 〈奇想主義〉とは何か?
4 スペイン的〈機知〉について
5 スペイン古典文学の核としての〈機知〉
付録Ⅰ 文学史年表
付録Ⅱ 重要作品解題
付録Ⅲ 18世紀以後のスペイン文学
本書成立の背景とねらい ——「あとがき」にかえて
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