内 容
機械と大衆の登場によって文化的危機にみまわれた世紀末ドイツの学者=読書人層は、一方で新しい人文社会科学を創り出すとともに、他方極度の混乱と対立を経てナチズムにからめとられていく。本書は学者達を襲ったこの危機の過程を学問とメンタリティに分け入って跡づける思想史の傑作。
目 次
はしがき
序 説 読書人の類型
第1章 読書人の社会史
1 教養中産階級の起源 1700年-1820年
官僚の時代
教養エリート
制度化
2 教育と社会 1820年-1890年
教養の施設=ギムナジウム
特権化(教養の資格証明)
読書人的知識人のステイタス
教育と社会階層
3 機械と「大衆」の出現 1890年-1918年
教養エリートの斜陽化
学校改革運動
大学の繁栄と内部矛盾
「大衆」の侵入?
4 ワイマール時代
没落の加速(インフレーション)
教育再編成の波
成果と限界
大学改革の挫折
第2章 懐旧の読書人階層
1 合理性と文化
ドイツと西欧
陶冶と文化
2 観念論と歴史派の伝統
「経験」批判と「精神」の優位
感情移入と個性の原理
3 大学と学問の理念
ドイツ的学問(非実利性と道徳的感化力)
全人格の陶冶
「純粋性」(大学の自由の限界)
4 知識人と政治・社会
法治国家と文化国家(ドイツ的政治思想)
国家と精神の結婚(読書人のナショナリズム)
変貌(変革から妥協へ)
「理想主義的」政治論
第3章 政治論と社会理論 1890年-1918年
1 正統派と近代派 —— 基本的構図
近代への反発と適応
脱政党と反利益政治
読書人と反ユダヤ主義
国民の大義
「理想主義」の限界
2 経済学と社会政策
歴史派経済学の読書人的要素
社会政策学会の諸潮流
伝統への挑戦(方法論争と新世代の反逆)
読書人的資本主義像(ウェーバーとゾンバルト)
社会政策学会の分解
3 社会学 —— テニエス、ジンメル、ウェーバー
ゲマインシャフトとゲゼルシャフト
ゲマインシャフトのイデオロギーとテニエス
ジンメルの近代社会分析
ウェーバーの社会学と読書人
4 世界大戦 —— 調和と不調和
1914年の理念(知識人の熱狂)
文化戦争(英雄と商人)
西欧批判の戦略
戦争目的をめぐる確執
近代派と戦争目的論
さめた理性と自己抑制
第4章 政治的対立の絶頂 1918年-1933年
1 近代派と適応の政治論
理性共和派
近代派の論理
伝統と現代の接合
2 正統派の反乱
反共和主義
学問と政治(グンベル事件)
商業主義と「解体」(正統派のスローガン)
精神の革命(近代の超克)
3 1920年代の社会科学
綱領の氾濫(社会学の未来)
不毛の社会政策論
急進的批判者(伝統からの疎隔)
4 読書人的政治論の危機
知識人の不安
精神と肉体(経済・技術の優位)
精神と政治の乖離
第5章 文化的危機の起源 1890年-1920年
1 文化的退廃の問題
技術主義・実証主義・専門化
退廃と復活のイデオロギー
退廃と没落の原因(4つの例)
読書人的感覚(叡智と賢者)
2 近代派の攻勢
ケルシェンシュタイナーの教育論
教育改革運動と近代派
ゲマインシャフトと教育
綜合(文化的退廃の克服)
3 正統派の反応
改革の拒否
「能力」(大衆化への抵抗)
過激ナショナリズム(政治から教育へ)
人文主義(非政治的政治性)
4 学問への波及
異端の教説(唯物論・実証主義・心理学主義)
観念論の復活
歴史学における危機意識(ランプレヒト論争)
第6章 学問の復活から危機へ 1890年-1920年
1 哲学と心理学の動向
批判主義の超克
価値哲学の構築
心理学の再生(自然主義の拒否)
2 精神科学の復興
「体験」と「理解」(ディルタイの精神科学)
ディルタイとジンメル
個性原理の哲学的擁護(ヴィンデルバントとリッケルト)
ウェーバーの方法論
ウェーバーの射程
3 学問と生 —— 価値の問題
観念論的世界観の希求
生の哲学
歴史主義のディレンマ
文化的綜合
危機と教育(学問の規範的機能)
4 大論議 1919年-1921年
ウェーバーの学問論(講壇予言の拒否と合理化の受忍)
ウェーバー批判
正統派と近代派の対応(ザルツとトレルチ)
正統派の勝利
第7章 学問の危機の頂点 1920年-1933年
1 哲学と心理学の展開
バーデン学派の本質
新実在論=新形而上学の登場
ゲシュタルト心理学(「原子論」の批判と抑制の論理)
精神科学的心理学(イデオロギーとの交錯)
2 綜合の運動
学問と実践の結合(熱情の綜合運動)
留保と抑制
無意識の精神的習慣
自己認識としての綜合運動
綜合の多義性
3 新しい教育論
制度改革から学問の革新へ
権威と拘束
反主知主義との接点
4 文化社会学と知識社会学
文化社会学と読書人の状況
知識社会学とシェーラー
マンハイムの理論(マルクスの影響と知的伝統)
既成理論の批判とその欠陥
読書人としてのマンハイム
結 章 伝統の終焉
注
訳者あとがき
文献目録
人名索引