『日本中世社会の形成と王権』: 第33回 「角川源義賞」 選評
黒田日出男氏の総評 【贈呈式パンフレットより】
「全体史をめざした画期的大著」
日本中世を全体史的にとらえることは、権門体制論・顕密体制論を提起して中世史学のみならず宗教史・思想史・日本文学研究などに巨大な影響を与えた故黒田俊雄氏の目指したところであった。その学説をあくまでも批判的に引き継いだのが本書である、と言い得るであろう。とかく静態的と批判されがちな権門体制論と顕密体制論を、著者はあくまでも動態的・形成過程的にとらえ返そうと全力を尽くしている。 …… (中略) ……
著者は自説の主張に大胆であり、見解を異にする研究者に対しては率直な批判を試みている。随所に論争の種がまかれているのだ。しかも、序章を導きの糸として読み進めれば、専門を異にする人にも、どんな論点がどのように重要なのか、著者の全体史的構想とはいかなるものなのかが分かる。その限界も。すなわち、論争のための条件はすべて整っている。
つまり、中世王権論を主軸に過程的・動態的に中世社会の形成を把握した、この大著の本領は、壮大なスケールでの問題提起にあると言えるだろう。比較的小さなテーマを深く掘り下げる研究が蔓延している感のある今日の日本中世史学に、このようなスケールの仕事が出現したことの意義は極めて大きい、と私は思う。日本中世史研究に活気に満ちた論争の時代がやってくることをぜひ期待したい。