“「サラリーマン」の誕生” —— 『「就社」社会の誕生』
“「サラリーマン」はどのようにして生まれたのか”
—— 『「就社」社会の誕生』
2010年12月1日時点での大卒就職内定率が68.2%と、調査を開始した1996年以降で最低となったことが、あらゆるメディアで報じられたことは、記憶に新しいことでしょう。この数値は、2000年代前半のいわゆる「就職氷河期」を上回る厳しさであり、長期化する不況のもとで企業側が採用を絞る傾向が続いています。こういった状況のなか、既卒者の採用枠拡大や、外国人留学生の積極的採用によるグローバルな人材の雇用・育成など、新たな人事システムへの取り組みを進める企業が増えつつあります。
学卒就職や終身雇用など、私たちが慣れ親しんできたいわゆる「日本的」雇用慣行・制度がすでに過去のものとなりつつあるかのようにみえますが、そもそもこれらの慣行・制度はいつ、どのようにして、そしてなぜ形づくられたきたのでしょうか? この壮大な歴史を鮮やかに蘇らせたのが、菅山真次著『「就社」社会の誕生 —— ホワイトカラーからブルーカラーへ』です。
帯文にある、「サラリーマンはどのようにして生まれたのか」というストレートなフレーズ、そして、「就社」社会・日本の夜明けを象徴する「集団就職」の写真が配されたカバーがなんとも印象的な本。
「就社」社会・日本を特徴づけるユニークな慣行・制度を生み出す種子は、日本の産業化過程それ自体の裡にすでに胚胎していました。すなわち、産業化のスパートとともに発芽・成長し (日清・日露戦争前後期)、やがて大きなつぼみをつけ (戦間期)、苛烈な夏の暑さのなかで開花 (戦時・占領期)、そして1950年代以降の高度成長期が、最後の結実の秋であったのです。
このような長期のタイム・スパンをとり、①学歴主義(“学歴の擬似職業資格化”)、②企業と学校の結びつき=リンケージにもとづく「間断のない移動」(“学卒就職”)、③「日本的」企業システムへの注目、という3つの視点を軸に、「就社」社会・日本の誕生を描き出していきます。1世紀にもわたるこの長い進化のプロセスは、大づかみにいえば、最初ホワイトカラーの上層で発生した慣行・制度が、ホワイトカラーの中・下層へ、そしてブルーカラー労働者へと、段階的に下降し、拡延していった歴史と捉えることができる —— 副題 「ホワイトカラーからブルーカラーへ」が意図せんとするところがここにあります。
近代以前から連綿と受け継がれてきた伝統の強い影響力のもとで形成されてきた「就社」社会・日本。1990年代以降、持続的経済成長の時代が終焉を迎えるなかで、現代の日本社会を支えるさまざまなサブ・システムが変化しはじめ、「就社」社会と呼ばれる日本独特の社会構造はすでに過去のものとなりつつあるのかもしれません。しかし、著者は最後にこう述べます。
「……だが、過去はただ過ぎ去ることはない。それは、伝統となって、意図するとせざるとにかかわらず、新しい『制度』、そして社会のあり方を規定し続けていくだろう。……」
興味を持たれた方は、ぜひ直接手にとってご覧ください。
菅山真次 著
定価/本体価格 7,770円/7,400円
A5判・上製・530頁
ISBN978-4-8158-0654-5 C3036
在庫有り
こんな本もぜひいかがでしょうか?
清水耕一 著
『労働時間の政治経済学
—— フランスにおけるワークシェアリングの試み』
2008年、サブプライムローン問題に端を発するリーマン・ショック、それに続く金融危機やそれに起因するアメリカ経済の停滞の影響が世界的に浸潤し、経済危機に陥ることとなりました。日本においても例外ではなく、現在もなお不況とそれにともなう失業問題に苦しむなか、雇用機会の増進を目指しワーク・ライフバランスをはかる「ワークシェアリング」に注目が集まっています。
本書が注目するのは、フランスにおいて1998年及び2000年に制定された35時間労働法をめぐる諸問題。10%以上の失業率が続いた1990年代のフランスでは、まず、右派政権による大胆なワークシェアリング政策が実施されたのを皮切りに、つづく社会党政権が1998年に35時間労働法 (いわゆるオブリー法Ⅰ)を制定し、大幅な労働時間短縮による雇用創出を目指しました。しかし、2002年の国民議会選挙における右派の勝利以後、とりわけサルコジが右派の主導権を掌握して以降は、法定週35時間労働制の有名無実化を進め、ワークシェアリング政策を放棄しただけでなく、社会をオブリー法以前に戻す目的を持って2007年に長時間労働促進法 (TEPA法)を制定するに至りました。
これにより、長時間労働を促進できると期待した右派政権でしたが、皮肉なことに、その効果が現れる前にサブプライムローン問題に端を発した世界的な経済危機によって失業が増加、再びワークシェアリングが労使間の課題として浮上したのでした。
以上のような労働時間に関する法そのものの変遷とその効果、この変遷を生み出した政治的諸勢力 (政党、政党内の潮流、経営者団体、労働組合)の主張と政策、制定された法に対するメゾ及びミクロ・レベルの社会アクター (産業部門、企業、労働組合)の対応と行動を記述・説明していきます。
長期的な景気低迷に喘いでいたフランスでの、ワークシェアリングを目指した国全体での取り組みを、実証的かつ包括的に明らかにした、世界的にも稀な研究書。アメリカ的な新自由主義とは異なる、ヨーロッパでの労働改革に関する経験が、雇用問題に苦しむ日本でのワークシェアリング導入について考えるうえで、多くの重要な示唆を提供しています。
清水耕一 著
定価/本体価格 6,930円/6,600円
A5判・上製・414頁
ISBN978-4-8158-0652-1 C3033
在庫有り