書籍の内容
柳田國男の長い学問遍歴と思想体系の底にある根源的問題意識とは何だったのか? 本書は、柳田学の「農政学から民俗学へ」の転身挫折説を退けて、「国民総体の幸福」実現のために若き日に学んだ社会政策学の学風を生涯と著作に貫いた経世済民の学として、柳田学の全体系を解読する。
書籍の目次
はしがき
凡例・初出一覧
序 章 課題と方法
課題 ——「経世済民の学」としての柳田学
方法 —— 構造論的アプローチと歴史論的アプローチ
第1章 辻川時代
—— 基礎的経験としての貧困
はじめに —— 課題と方法
父の課題 —— 貧困との戦い
兄の課題 —— 貧困の克服
国男の位置 —— 境界
おわりに —— 基礎的経験としての貧困
第2章 布川時代
—— 基礎的経験としての比較
はじめに —— 課題と方法
環境としての辻川
環境としての布川
おわりに —— 布川時代の意義
第3章 文学から経済学へ
—— ナショナリズムとロマン主義
はじめに —— 課題と方法
学校 —— 人間関係(1)
先達 —— 人間関係(2)
友人 —— 人間関係(3)
女性 —— 人間関係(4)
死と宗教 —— もう1つの人間関係
おわりに —— ナショナリズムとロマン主義
第4章 『農政学』の社会政策論
—— 自立経営の育成
はじめに —— 課題と方法
『農政学』——「孤独なる荒野の叫び」
政策理念 ——「国民総体の幸福」
政策構想 —— 自立経営育成論
政策手段 —— 産業組合
政策目標 —— 民富の形成
小 括 —— 課題としての「協同相助」
補 論 柳田国男の社会主義論
—— 共感と批判
はじめに
『農政学』の構成
中農養成策
国家は経済を基礎づける
労働全収権 —— 働く者への共感
土地社会主義の検討
土地私有制の擁護 —— 労働全収権から
小生産者 —— 社会的基盤
おわりに
第5章 『後狩詞記』の学問的意義
——「郷土」の措定
はじめに —— 課題と方法
『農政学』との親和 ——「古日本の民俗を窺知すべき九州の山村」
『農政学』の深化 ——「日向国奈須の山村において今もおこなわるる猪狩りの
故実」
おわりに ——「郷土」の措定
第6章 『農業政策』の一極集中批判
—— 衰退する「郷土」
はじめに —— 課題と方法
主題 —— 価格政策
分析 —— 一極集中
政策 —— 地域主義
おわりに —— 経済政策を超えて
第7章 地域主義の倫理的基礎
——『遠野物語』の「人間研究」
はじめに —— 課題と方法
舞台 ——「小市場」
主題 ——「人間研究」
分析 ——「固有信仰」
政策関心 —— 地域主義の倫理的基礎
おわりに ——『遠野物語』の思想史的意義
第8章 雑誌『郷土研究』の主題・方法・性格
—— 柳田国男の社会問題研究
はじめに —— 課題と方法
『郷土研究』の主題と分析 —— 差別問題への生活史的接近
『郷土研究』の方法 —— 認識法と論理法
おわりに —— 社会問題研究としての『郷土研究』
第9章 郷土研究の社会的意義
——「学問のみが世を救うを得べし」(『青年と学問』)
はじめに —— 課題と方法
ソテツ地獄 ——「孤島苦」の沖縄
国際連盟委任統治委員会 ——「孤島苦」の日本
「孤島苦」の克服 —— 普通選挙
「学問のみが世を救うを得べし」——『青年と学問』
おわりに ——「経世済民」と「郷土研究」
第10章 農民問題の経済政策
——『都市と農村』の経世済民論
はじめに —— 課題と方法
主題 —— 地域政策
分析 —— 地域の分断
政策(1)—— 地域主義
政策(2)—— 農民組合
おわりに ——『都市と農村』の経済思想史的意義
第11章 『明治大正史 世相篇』の倫理政策
—— 日本人の「生き方」とその課題
はじめに —— 課題と方法
「国民としての我々の生き方」(1)—— 家の独立と自立難
「国民としての我々の生き方」(2)—— 家自立のための方策
おわりに —— 人間としての自立
第12章 ファシズム下の教育政策と社会改革
—— “常民” の創出
はじめに —— 課題と方法
教科教育論 ——「心意」の表現
民間伝承論 ——「心意」の探求
教育目標 —— “常民” の創出
おわりに —— 功利主義との併行関係
補 論 「比較民俗学」の政治思想
—— 太平洋戦争下のアジア意識
はじめに —— 課題と方法
1920年前後のアジア意識
1940年前後のアジア意識
おわりに —— アジア意識の問題点
終 章 結語 —— 社会政策学としての「経世済民の学」
人名索引