『肥満の疫学』:推薦のことば
日野原重明氏による
『肥満の疫学』推薦のことば
肥満の疫学研究者として著名な中国出身のハーバード公衆衛生大学院教授フランク・B・フー(Frank B. Hu)氏によって、2008年にオックスフォード大学出版局から英文で出版された「Obesity Epidemiology」(同大学院所属の研究者11名による分担執筆を含む)の日本語訳が、この度、名古屋大学出版会から刊行された。私はこの出版に対して研究助成を行った聖ルカ・ライフサイエンス研究所の理事長として、この本を強く推薦したい。
日本人は欧米人に比し肥満者が少なかったが、昨今は日本人や中国人、インド人にも肥満者が多くなり、糖尿病や循環器疾患の増加が注目されるようになった。
本書では、肥満の疫学に関わる基礎的研究法の解説に加えて、肥満蓄積と体脂肪測定、食事調査法、身体活動の測定方法、肥満がもたらす代謝の病態、肥満と心血管疾患、肥満と癌、肥満と死亡率、肥満と健康に関する生活の質、肥満の及ぼす経済コスト、そして、食事・栄養と肥満、身体活動・座位生活と肥満、睡眠不足と肥満、肥満の社会的規定因子、代謝性・内分泌性の肥満予測因子、肥満の発生期発達期起源、小児期肥満の原因とその影響、肥満を引き起こす遺伝的予測因子、遺伝子と環境の交互作用と肥満、の各章があり、最後は監訳者による日本における肥満の疫学についての補章で結ばれている。
個々人の努力によって肥満を予防する教育が国民一人ひとりに行きわたることが重要であり、臨床疫学的立場でのコホート研究により将来の肥満対策の指導方針が確定されることが本書には巧みに表現されている。本書は主として大学院生向けに書かれたものであるが、肥満の疫学研究を行うすべての人の必読の書と言えよう。
内容豊かな本書が広く読まれることを望む次第である。
(聖ルカ・ライフサイエンス研究所理事長・聖路加国際病院理事長)