内 容
江戸の裁きにおいて、罰せられるべき者はいかにして決まったのか。具体的な判例から江戸期固有の法理を探り出し、西洋法を規範とする刑法理解を塗り替えるとともに、幕政を基礎づけた統治原則をも浮き彫りにする。今日に及ぶ日本人の法観念への新たな理解を開く力作。
目 次
凡 例
序 章 徳川幕府刑法の形成
1 徳川幕府における判例法
2 判例法理の形成
3 判例法理の研究動向
4 本書の目的と構成
第Ⅰ部 犯罪行為とその責任
はじめに —— 刑事責任の捉え方
第1章 身分責任としての不念
—— 過失と不作為を包含するもの
1 公事方御定書成立以前
2 公事方御定書成立以後
3 不念の用法と身分責任
第2章 怪我とはなにか
—— 望まぬ結果についての責任
1 公事方御定書成立以前
2 公事方御定書成立以後
3 怪我と不念との関係
4 怪我とあやまちとの関係
おわりに —— 不念・怪我が映し出す近世の刑事責任
第Ⅱ部 集団と個人の責任
—— 共犯の諸問題
はじめに —— 共犯の研究史
第3章 首と従としての頭取と同類
1 頭取と同類の関係
2 御定書に規定ある頭取・同類
3 御定書に規定なき頭取・同類
4 頭取不明の場合の取扱いと強訴・徒党の特性
5 頭取・同類と律の共犯規定
6 頭取・同類の用法
第4章 頭取のいない共犯関係
——「共同正犯的処分方式」の再検討
1 頭取の不存在
2 同類全員が実行行為を共同した場合
3 同類の一部が実行行為以外の加功をなした場合
4 盗における頭取なき同類の特殊性
5 頭取なき同類の用法
第5章 下手人は誰か
—— 人殺の特殊性と共犯
1 共犯処罰と下手人
2 御定書の規定による場合
3 御定書の規定によらない場合
4 人殺における共犯処罰の特徴
おわりに —— 共犯処罰に映る刑事責任
第Ⅲ部 問われる被害者
はじめに —— なぜ被害者が問われるのか
第6章 人殺と被害者の身分責任
1 御仕置御免願と刑責の減免
2 被害者の行為と刑責の減免
3 被害者の身分と刑責の減免
4 正当防衛「的」法理の正体
第7章 盗・巧事と被害者のあるべき姿
1 盗の被害と財物の保管
2 かたり事・ねたり事における油断
3 謀書・謀判における被害者の不念
4 財産的損害を伴う犯罪と被害者の責任
第8章 密通と男女のあるべき姿
1 被害者たる女性の責任
2 被害者たる夫の責任
3 密通処罰と被害者の責任
おわりに —— 被害者という身分
終 章 近世から近代へ
—— 固有法理とそのゆくえ
1 刑事責任の本質 —— 本書の結論
2 近代法への転換と刑事責任観
註
あとがき
主要参考文献
索 引
書 評
『日本歴史』(2021年4月号、第875号、評者:高塩博氏)
『週刊読書人』(2020年5月29日号、第3341号、評者:安高啓明氏)