書籍の内容
日本人は神秘的? それとも猿? 人が 〈他者〉 に注ぐ視線はどのように形成されたのか。その歴史性に潜むオリエンタリズム―西洋 (男性) 中心主義と現代の ポストコロニアル的状況を最新の知で脱構築し、人種・国境・ジェンダーに囚われない真の国際人のための文学・文化論を提示。
書籍の目次
【ウォーミング・アップ】
異文化とどうつきあってゆくか (稲賀繁美)
A.日本人は西洋のことをよく知っているか
B.発信型と受信型?
C.眼差しの倫理学にむけて
【イントロダクション】
比較文学はレイプか (佐々木英昭)
「比較文学」 という視線 / 解釈と侵犯 / 外交使節という見せ物 / 〈他者〉 とは何か /
東と西 / 「東洋人」 という意識 / 「脱亜入欧」 と 「自己本位」
Ⅰ 見ることの意味 —— 日本と西洋の視線の往還
【鏡としての異文化】
1 むかし、ムスメ小説があった —— 『蝶々夫人』 と日本女性のイメージ (岩田和男)
1-1 東洋のバタフライ
1-2 日本のバタフライ
1-3 ムスメ小説というジャポニズム
1-4 再びマダム・バタフライ
2 外国人劇場と 『ミカド』 —— 日本で上演されたジャポニスム (升本匡彦)
2-1 はじめに
2-2 外国人劇場と新劇
2-3 初期新劇と横浜ゲーテ座
2-4 喜歌劇 『ミカド』 をめぐって
3 父と日本についての発見 —— 島崎藤村のフランス体験と文明批評 (平林 一)
3-1 不倫と戦争 —— 『仏蘭西だより』 の背景
3-2 黒船と隅田川 —— 『海へ』 の文明論
3-3 19世紀日本の考察 —— 『夜明け前』 へ
3-4 パリと東京 —— 栗本鋤雲と都市論
3-5 おわりに —— 近代日本への視座
4 徳冨蘆花はトルストイに何を見たか —— 評伝執筆とヤースヤナ・ポリャーナ訪問
(吉田正信)
4-1 はじめに
4-2 評伝 『トルストイ』 執筆まで
4-3 『トルストイ』
4-4 蘆花の新生と煩悶
4-5 蘆花のトルストイ訪問
5 霊の生まれる場所 —— 科学とスピリチュアリズムの狭間で (一柳廣孝)
5-1 はじめに
5-2 明治のこっくりさん・催眠術ブーム
5-3 科学とスピリチュアリズムの狭間で
5-4 「霊」 への眼差し —— 夏目漱石・芥川龍之介を中心に
【鏡の国の他者】
6 試みとしての脱オリエンタリズム —— ハーン・まなざし・女性 (武田美保子)
6-1 「妖精の国」 へのまなざし
6-2 「宿命の女」 という 「オリエンタリズム」
6-3 覚醒への軌跡
6-4 ほぐれゆく呪縛
6-5 家庭生活での 「まなざし」
7 「自己本位」 で見る西洋文明 —— 漱石 「開化」 論の前提 (佐々木英昭)
7-1 人間と猫はどちらが偉いか
7-2 「矛盾」 を 「説明する」 意志
7-3 東西ノ趣味全ク異ナリ
7-4 トルストイ対漱石
7-5 西洋ノ文人ヲ敬セズ
Ⅱ 異文化とはなにか —— 日本対西洋の図式を越えて
【視線の形成と変容】
8 アジア・アフリカ人は人間と見られていたか? —— 19世紀西洋文学における 「猿」の意味
(大貫 徹)
8-1 はじめに —— 名探偵デュパンの鋭い指摘
8-2 ヨーロッパの 〈外部〉 としてのアジア・アフリカ
8-3 アジア=アフリカ=オラン・ウータン
8-4 日本=ホッテントット=猿 —— ジュール・ヴェルヌの作品を通して
8-5 非ヨーロッパ人を動物視するヨーロッパ人の差別意識
8-6 おわりに
9 若き日の詩人の万博体験 —— T.S.エリオットにおける比較文化論の行方 (成田興史)
9-1 はじめに
9-2 万国博覧会と単線的な進歩発展史観
9-3 セントルイス万国博とフィリピン会場
9-4 エリオットの短編 「昔は王様の男」
9-5 『荒地』 における異文化への視線
10 〈良き野蛮人〉 論の強みと弱み —— ディドロとモンテーニュを中心にして (田所光男)
10-1 はじめに
10-2 ブーガンヴィルの世界一周航海
10-3 タヒチへの二重の態度 —— 楽園の賛美とその領有
10-4 ディドロの 〈良き野蛮人〉
10-5 〈自然〉 の中に閉じ込められたタヒチ
10-6 モンテーニュと人食い人種 —— 相対主義を超えて
10-7 〈人間〉 における接点
10-8 おわりに
【視線の屈折と交錯】
11 まなざしの帝国主義 —— ロンドンの漱石/漱石の満州 (武田悠一)
11-1 ねじれた西洋化
11-2 漱石と 「支那人」
11-3 漢文学と英文学
11-4 鏡に映った自己
12 帝国との対話は続く —— ポストコロニアル文学入門カリブ篇 (中村和恵)
12-1 ポストコロニアル文学とは?
12-2 引き裂かれた存在 —— ミッテルホルザーとリース
12-3 植民地の側から語る —— 「語り直し」 からハリスへ
12-4 他者との対話 —— クロス・カルチュラリズムの可能性
13 『悪魔の詩』 あるいは文学という犯罪 —— 異文化理解の倫理にむけて (稲賀繁美)
13-1 固有名詞と歴史という 〈犯罪〉
13-2 「ラシュディ事件」 と日本
13-3 視線の交錯と五十嵐一の選択
13-4 否定的能力発現の場としての翻訳
13-5 文学という犯罪
13-6 「知識人」 と 〈犯罪〉
曲がったフランスパンを食べよう —— あとがきをひねって (佐々木英昭)